とある友人が目を輝かせてこう言った。
「三十万荒稼ぎしたぜ!!」と。
彼は同人即売会に参加し、そこで自分の作品を完売させたのだと言う。
いま一番流行りのコンテンツで、熱を抑えられないオタク達が四方八方から群がっている。その様はまるで蟻の大群のようだ。
いや、撤回する。そんな大層なものではない。蟻は自らの役割を持って行動するが、彼らは流行りという娯楽コンテンツの波に乗って馬鹿騒ぎをしているだけに過ぎない。
だから羊と例えよう。
羊飼いと犬によってその行動を操られ、自ら思考することなく団体の中で、なんとなく生存を維持している羊だ。
そんなこんなで羊の群れによって食いつくされた同人誌は、30万ものお金に還元されたらしい。
さあどんなもんだ。
その同人誌とやらは。
私は息をのんでページをめくった。
「これはひどい。」
数十ページの原稿を完成させたことへの敬意はあるものの、それ以上に煮え切らない違和感が私を襲う。
技術も費やした時間も全て自分が勝っているという確信と反して、お金という目に見える利益が下であるという事実に対しての違和感。
人気コンテンツに乗じて、数十ページエロマンガを描くだけで、ONE PIECE1巻より高い値段を付けても売れる違和感。
よぎるのは邪心だった。
自分が同人を描いたらもっと売れるからやってみよう。とは考えてはみるものの、それは虚しいだけだと悟った。
自分はお金のために漫画を書いてるわけではないからだ。
色々投げ捨ててでも夢を追っていたはず。漫画に全てを捧げると決めたはず。
いまは耐えて、いつか自分の漫画で億を稼ぐのだ。ならばこの煮え切らない今の気持ちも、下らなく思えよう。
おやすみなさい