不幸マウント。
苦労話を披露したがる人間がいる。
何故か決まって片親。
家庭環境に何らかの不満やコンプレックスを感じている人間は口を揃えて私に言う。
要約して内容をまとめるとこうだ。
「地獄を見てきた人間にしかわからないことがある。お前のような幸せな家庭で育った奴にはわからない。」
不思議なことに、これを言ってくる人間が多い。
指折り数えてみると、片手が確実に拳になる。
私はそれを聞いて、相づちを打つものの、
それに対しての反論と、それを口に出す人間のマインドについての突っ込みが脳裏に過る。どうしたら私の意見をわかって貰えるように言葉に出来るだろうかと、頭の中で考える。
きっと伝える事は困難で、相手の反感を買うことは予想の範囲内だ。
だから一旦、押し黙る。
肯定的に、頷く。へりくだる。
本当は煙草に火を着けて、煙を吐き出してしまいたいのに。副流炎で相手が煙たがることを懸念して、私はぐっと堪える。
そうして引火しなかった煙草が、いつしかふつふつと焦げて無くなっていく。
私はその様をただ見つめる。
マウントは取らせて置けば良い。
私に誤った名札を着けてくる人間にも、私は否定をしない。
君たちの勝手な想像と幻の中で、私は生きる。
誤解を解くことにさほど意味はない。
煙草の煙がいつしかもくもくと心の中に充満していく。
溢れそうになると独りになりたくなる。
そうして私は自分の信念の元に漫画を描く。